眠れぬ夜のあなたへ

vol.3「自分らしい眠り」へのプロローグ

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「理想の睡眠」が眠りを拒む!?

「眠りはひとそれぞれでいい」 不眠が慢性化してしまってからようやく重い腰を上げ医院に通うようになった私に向けて、ある日、医師が口にしたその一言は新鮮な響きがあった。眠りに個人差があることはそれまでも頭ではわかっていた。しかし、実際に私が思い描いてきたのはあくまで、夜、布団に入ったらただちに入眠できて、そのままぐっすり8時間が「理想の睡眠」であって、たとえばそれは若い頃に味わったような熟睡の記憶を持ち出してのことだったり、またあるいは世間で語られがちな「よい睡眠のパターン」が背景にあってのことだったりで、必ずしも私自身の現実やライフスタイルに根ざした「理想」というわけではなかった。聞けば、よく語られる「8時間睡眠がいい」というのも科学的根拠があることではないそうで、確かに私の周囲には毎日4,5時間程度の睡眠でも不満は感じず、かつ肉体的にも問題なく暮らしているひとが何人もいる。つまり睡眠とはその要求度も含めて十人十色、同じひとりの人間でも年齢や生活環境などによって変化していくというし、要は自分に合う「眠りのスタイル」のようなものを見つければいいということなのだろう。

思えば私は、どこかの女性誌の見出しじゃないけれど、「自分らしい生き方」を追求することは大事にしても、「自分らしい眠り」などということを意識したことはなかった。私は時間の自由がきく仕事なのだから、もう少しフレキシブルに眠りをとらえてもよかったのだ。私の眠りを不自由にしてきたもの、それは案外、私が思い込んできた「理想の睡眠」に縛られていたせいかもしれない。医師の言葉をきっかけに、私は自分の不眠のその周縁に知らぬ間に溜まっていた澱のようなものに気づくことになる。医師から処方される薬も固定され、少しずつ睡眠が安定しつつあったので、精神的な余裕が出た証拠かもしれなかった。

がんばってリラックスする!?

今にして思えば滑稽なほど必死だった。私の不眠がなかなか寝つけない「入眠障害」であったことは前にお話しした通りだが、にもかかわらず、私のなかには、床につく=自然に眠くなるものという先入観が依然としてはりついており、それがどうにも自分には無理だとわかると今度は、「眠気を誘うにはリラックスだ! リラックスするぞぉ!!」と拳を突き上げんばかりに熱を入れるようなところがあった。我が身の不眠を長引かせる原因などについてはほとんど考えることなく、ただただ対処法を探すことだけに躍起になっていた。

イラスト今でも我が家にはその残骸が転がっている。たとえば小川のせせらぎ音が流れるマシーンに安眠枕、適度な重みとラベンダーの香りが眠りを誘うという目枕に足枕、アロマグッズに羊のぬいぐるみの形をした抱き枕、不眠のツボを温める電気温灸器もある。あるとき医師にそんな話をしたら、「随分、がんばってリラックスしようとしてましたね」と苦笑い。私も思わず笑ってしまった。だいたい、がんばる行為自体リラックスからは程遠いわけで、案の定、頭が冴えてますます眠りが意識され、その先に不眠を悪化させた自分がいた。

眠れない経験→また今夜も眠れないかもしれない→不安が刺激となりさらに眠れない。そういう状態を「不眠恐怖」と呼ぶそうだが、あとになってその言葉を何かの本で見たとき大いに納得した。悪循環に陥っていた私の不眠のありかをそこに見た気がしたからだった。ちなみにがんばり甲斐(?)があったリラックス法もなかったわけではない。たとえば、夜のコーヒーを止め、代わりにハーブティーを飲むことだ。ラベンダーやカモミール、リンデンなどにはリラックス効果があるといわれている。反対にコーヒーなどに含まれるカフェインは眠りを妨げる。カフェインを摂取するとなんとその覚醒作用は数時間も続くそうだ。

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