睡眠トピックス

ドクターからのメッセージ

第13回 睡眠時無呼吸症候群でのCPAP治療施行と、それでも残る日中の眠気への対処

医療法人社団SSC スリープ&ストレスクリニック 理事長
林田 健一 先生より

睡眠外来での睡眠時無呼吸症候群の治療目標と治療法


林田 健一 先生

睡眠時無呼吸症候群では、夜間寝ている間に無呼吸や低呼吸状態になり、そのたびに目を覚ましてしまいます。夜間の眠りが非常に細切れに分断化して、ぐっすり眠れない、熟睡できずに疲れが取れない状態になります。そのため、翌日の昼間に眠気や倦怠感、集中力低下がみられ、エラーや事故のリスクにつながってきます。また、無呼吸や低呼吸状態から目を覚ますたびに血管や心臓に負担がかかり、徐々に血圧や血糖が上がってきて生活習慣病が悪くなるといった悪影響も無呼吸症候群には秘めております。その結果、心筋梗塞や脳卒中のリスクにもつながりかねません。

無呼吸症候群の治療目標は、繰り返す無呼吸や低呼吸を抑止し、その結果良質な睡眠を取り戻すことによって翌日の昼間のQOLを改善することです。また、メタボリックシンドローム、生活習慣病との悪循環を断ち切り、心血管系の疾患の発生の予防、ひいては生命予後の軽減まで治療目標に含まれております。

治療方法としては、中等度以上の無呼吸症の患者さんには、CPAPという療法が行われています。CPAPとは鼻マスクから圧をかけた空気を送り込むことで喉を広げて、無呼吸・低呼吸が起こることを抑止します。1時間に20回以上無呼吸・低呼吸がある方には保険適用になっております。また、軽症の方、あるいはどうしてもCPAPのマスクが付けられない方には、口腔内装置、いわゆるマウスピースの治療法があります。マウスピースを装着することで、下顎や舌を前方にスライドさせて喉を広げますが、この方法も無呼吸や低呼吸の治療に有効と言われています。ただし、重症で肥満度の高い方には、マウスピースだけで治療が難しい場合もありますので注意が必要です。極度の鼻閉や扁桃肥大などの耳鼻科的問題がある方は、耳鼻科での施術が適用になったり、最近は顎の形そのものを矯正する顎矯正術が選択されるケースもあります。

無呼吸症候群の患者さんの中には、自覚症状が乏しい方もいらっしゃいます。このような方では、CPAPやマウスピースを使い続けることが非常に難しくなる場合もありますが、未治療で放置するとやはり命にも関わる疾患であることをしっかり踏まえながら日々の治療を継続していくことが重要です。

睡眠時無呼吸症候群の患者さんに対する生活指導

CPAPやマウスピースは、あくまでも対症療法になります。無呼吸症候群を根治的に治療するためには、特に肥満のコントロールがとても重要になってきます。体重が1割落ちるだけで無呼吸や低呼吸は3割ほど少なくなるといった報告もありますので、時間をかけてゆっくり体重を落とすことが重要です。

また、規則的な睡眠習慣で適切な睡眠を確保することがとても重要になります。睡眠不足では、せっかくCPAPやマウスピースをしていても効果が台無しになってしまいます。また、夜型の生活をしたり、寝て起きてという時間が不規則になったりすると、日中の眠気の原因になったり、良質な睡眠が取りづらくなりますので、なるべく決まった時間帯に睡眠を取るようにしてください。睡眠時間については個人差もありますが、7時間程度を目安に足りないようであればそこから少しずつ延ばしていく方法がよろしいかと思います。夜型の生活にならないためにも、朝はしっかりカーテンを開けて自然光を浴びるように心がけてください。また、お昼の休憩時間の最後は20分程度の仮眠を取る習慣で午後の眠気を少しリフレッシュすることが可能になりますので、ぜひ実践してみてください。

嗜好品の取り方にも注意が必要です。特にアルコールは喉の筋肉を緩めて、無呼吸や低呼吸を起こりやすくしてしまいます。また、睡眠の質も低下させるため、なるべくアルコールは控えるようにしましょう。それから、カフェインの取り過ぎも夜の睡眠の質を下げたり寝つきを悪くしたりしますので、夕飯後、夜の8時くらいからはノンカフェインで過ごすようにしてください。ニコチンにも覚醒効果があるため、眠れないときの一服は避けるようにしてください。

~日常生活で気を付けること~
  • 肥満を改善する
  • 規則正しい睡眠習慣を心がける
  • 就寝前の飲酒や喫煙は控え、カフェインの取り過ぎに注意する

すでにCPAPによる治療を行っている患者さんで、
睡眠時無呼吸症候群の症状改善がみられない場合の対処法

CPAPを使用していても十分な効果が得られない場合は、CPAPが適正に使用できているか確認することが重要です。マスクが合っていないと空気が途中で漏れてしまったり、結露が多くて途中で目が覚めてしまったり、あるいはマスクを付けるとどうしても鼻が詰まってしまったりなど、眠りの妨げになっている場合は調整や対策が必要になりますので、ご家族に確認していただいたり、担当のドクターとよく相談するようにしてください。

それでも眠気が残っている場合、まず日々の睡眠を見直してみるようにしましょう。平日・休日ともに2週間くらいはなるべく7時間を切らないように十分な睡眠を取ってみてください。お忙しい方だと平日は5~6時間、そして休日に8~9時間、場合によっては10時間以上と寝貯めをする方も多いのですが、このように睡眠時間がばらついていると、平日の日中の眠気の原因につながりかねません。

また、脚がむずむずしたり、じっと布団にいられないようなレストレスレッグ症候群、あるいはよく観察していると寝ているときに周期的に脚がぴくんぴくんと動く周期性四肢運動が起こっていないかどうか、このような場合は専門医による確定診断が必要になりますのでご相談いただき、適切な良質な睡眠を取っていくことが重要になります。

その他、アルコールの取り過ぎによる睡眠の不良も翌日の眠気や倦怠感につながります。また、眠気を起こすような抗アレルギー薬や精神安定剤を服用されている方は、薬剤の調整をすることで眠気が軽減する場合もあると思いますので、担当の先生と相談してみてください。さらに、精神的な疲労が眠気や倦怠感として認識される場合もありますので、気分転換、ストレスチェックも行うようにしましょう。

CPAP治療が十分になされていても、日中の眠気が残る場合に行われる検査と治療

眠気を来たす他の要因を除外した上で、それでもCPAPを使っていても眠気が残る場合には、その残った眠気の客観的評価を行います。反復睡眠潜時検査(MSLT検査)と言われ、具体的には、無呼吸の診断のときに用いた終夜ポリグラフ検査の装置を着けて昼間記録します。日中2時間おきに4~5回暗い検査室で寝てもらうという指導をします。それで、どれくらいのスピードで実際に寝てしまうのか、またそのときに何か特殊な脳波がないかという鑑別も踏まえて客観的な眠気の強さを評価していきます。この記録で平均8分以内に眠ってしまうような強い眠気があった場合に具体的な治療に移るといった基準が設けられています。

このような検査を踏まえて、客観的にも日中の眠気が残っているといった診断・判断になった場合は、最近新しいお薬があります。このお薬は、人間の睡眠と覚醒のうち、覚醒力のほうを維持する・促進するといった効能がありまして、朝1錠飲むと日中の間は居眠りや眠気を感じることなく過ごすことができます。少しずつ少量から使うことで大きな副作用なく過ごせる方が多いと思います。お薬を飲んで昼間の眠気が改善した場合にもCPAPやマウスピースを止めてしまうと再度眠気を来たす原因になりますので、あくまでも通常のCPAPやマウスピース治療で取りきれない眠気に対してのサポート、補足になるお薬だと理解してください。

睡眠時無呼吸症候群の問題点(睡眠不足がきたす生活の質の低下や合併症など)

無呼吸症候群では、眠っている間に無呼吸や低呼吸を繰り返すことで夜間の眠りが非常に劣化します。その結果、日中強い眠気を来たし、仕事や学習の効率を下げてしまったり、場合によっては大きな事故につながりかねないような危険が潜んでいます。具体的には、無呼吸症の患者さんでは自動車運転リスクは通常の3~7倍程度、非常に高くなるという報告もありますので、十分な注意が必要です。

また、夜ぐっすり眠れないことで、翌日の疲れ、倦怠感、意欲や活力低下も無呼吸症の患者さんではしばしばみられます。似たような状態にうつがありますが、うつ病だと思ってずっと薬を飲み続けていたら実は無呼吸症が隠れていて、無呼吸症の治療をしたら改善したといったケースもたまにありますので、両者の鑑別も非常に重要です。

たかがいびきで済まさないように、いびきが大きいと言われている方、あるいは最近体重が増えてきて、しかもぐっすり寝た気がしないなどの症状がある場合、自覚症状がない方もいらっしゃいますので、ぜひご家族の方、ご本人だけではなく皆様が無呼吸症候群に注目して、気になるようであればぜひ医療機関を受診するように心がけてください。

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