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「“眠り”のしくみ」では、 “眠り”の基本メカニズムと“眠り”の不思議について解説していきます。
正しい知識を身に付け、皆さんにとっての「健康的な“眠り”」を考える一助としてご活用ください。

監修:滋賀医科大学 名誉教授 山田 尚登 先生

眠りのメカニズム

眠りの不思議

近年、“眠り”の科学は大きく解明が進んできました。
「眠りたいのに眠れないのはなぜ?」「十分な睡眠時間をとったのに、眠いと感じるのはなぜ?」
このような一見不思議な現象にも、じつは理由があるのです。
“眠り”の不思議では、謎を解き明かすための“眠り”に関する情報について解説していきます。

ヒトが生きるために、長い年月をかけて培ってきた“眠り”という不思議な能力。
新しい気づきや面白さを感じていただくとともに、皆さんの“眠り”についても考えてみましょう。

①災害直後の不眠は生き残るため!?

地震・台風・大雨・洪水など、自然災害が身近に起きたとき、「眠れない……」という声をよく聞きます。
じつは災害直後に一時的に眠れなくなる(一過性不眠)のは、ヒトが生き残るための防衛反応と考えられています1)*1
ヒトの体は、災害などにより強いストレスを感じると、ストレス反応を引き起こすホルモンを分泌し、心と体を覚醒・興奮状態にします*2
危険な状況に対処するために、心と体を動ける状態に保とうとするのです。

  • *1:災害時の急性の不眠は、記憶の定着を妨げることで、PTSDの発症を抑制する可能性が指摘されています2)
  • *2:強いストレスが長期間続くと、ホルモンの分泌バランスが崩れ、心身にさまざまな影響があらわれます。

②焦りや心配しすぎは逆効果!

被災から数ヵ月は、慣れない状況や環境に加え、緊張や疲労などの慢性ストレスが続くことから、誰しも寝つきが悪くなったり、就寝中に何度も目が覚めたりといった不眠に陥ります。
ここで焦ってしまったり、過度に心配してしまったりすると、不眠恐怖症となってしまうことがあります。
「眠る時間にこだわらずに、眠れるときに眠る」と、開き直ることが推奨されています3)
避難所など夜間睡眠が限られてしまう状況下では、昼間に睡眠をとることで、夜間の睡眠不足による眠気や注意力の低下を補えることがわかっています4)

またこの時期は、不満ややり場のない怒りがこみあげてきたり、無力感を覚えたりするなど、心の状態がネガティブになります。
心の状態と睡眠は密接に関係しており、不眠の改善には、心のケアも必要です。
無理をせずに、避難所や自治体の健康相談を利用したり、普段からお互いに声かけを行ったりすることが推奨されています5)

災害時のストレス・心の変化と不眠(イメージ図)

災害時のストレス・心の変化と不眠(イメージ図)

【参考】
厚生労働省「東北地方太平洋沖地震に関連した不眠・睡眠問題への対処について」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/0311/index.html)2024年9月
日本睡眠学会 編. 睡眠学 第2版. 朝倉書店 2020 p. 528-32
外傷ストレス関連障害に関する研究会 金吉晴 編. 心的トラウマの理解とケア 第2版. じほう 2006 p.65-8

③不眠は自然に解消する?

過去の災害報告によると、災害直後は被災者の6~7割が睡眠障害を訴えていましたが、災害から2~3ヵ月経過後には睡眠障害を訴える人は5割以下になります6)。これは、ヒトの持つ自然治癒力のためです。
しかし、依然として、半数近くの方は不眠を訴えており、2ヵ月を超える不眠には注意が必要とされています4)

このような長引く不眠は心と体に影響を及ぼし*3不眠恐怖がさらに不眠を助長する悪循環に陥りやすくなります(慢性的な不眠)4)
この悪循環を断ち切るためには、睡眠環境や習慣を見直したり、医師による治療を受けたりすることが提案されています4)

  • *3:「⼼の不眠」が数ヵ⽉続くと、睡眠による緊張緩和ができずに身体的興奮が持続してしまうため、「体の不眠」状態に移⾏してしまいます4)
  1. 1)文部科学省ホームページ「在外教育施設安全対策資料【心のケア編】」 第2章 心のケア 各論
    https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/002/003/010.htm)2024年9月
  2. 2)Kuriyama K et al. Biol Psychiatry. 2010: 68(11): 991-8
  3. 3)厚生労働省「東北地方太平洋沖地震に関連した不眠・睡眠問題への対処について」
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/0311/index.html)2024年9月
  4. 4)Mollicone DJ et al. Acta Astronaut. 2008: 63(7-10): 833-40
  5. 5)厚生労働省「被災地での健康を守るために_平成23年7月25日版」
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/hoken-sidou/disaster.html#)2024年9月
  6. 6)Kato H et al. Acta Psychiatr Scand. 1996: 93 (6): 477-81
【参考】
厚生労働省「東北地方太平洋沖地震に関連した不眠・睡眠問題への対処について」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/0311/index.html)2024年9月
厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業)災害派遣精神医療チーム(DPAT)と地域精神保健システムの連携手法に関する研究
「自治体の災害時 精神保健医療福祉活動マニュアル」

もう少し知りたい!

急性不眠とPTSD

災害時の急性の不眠は、記憶の定着を妨げることで、PTSDの発症を抑制する可能性が指摘されています。

ストレスとホルモンバランス

強いストレスが長期間続くと、ホルモンの分泌バランスが崩れ、心身にさまざまな影響があらわれます。

心と体の不眠

「⼼の不眠」が数ヵ⽉続くと、睡眠による緊張緩和ができずに⾝体的興奮が持続してしまうため、「体の不眠」状態に移⾏してしまいます。

男女の成長・性ホルモンの変化(イメージ図)

男女の成長・性ホルモンの変化(イメージ図)

【参考】
日本睡眠学会 編. 睡眠学 第2版. 朝倉書店 2020 p. 372-6
Ober C et al. Nat Rev Genet. 2008: 9(12): 911-22
Isojima T et al. Endocr J. 2012: 59(9): 771-80

①男女の成長差は睡眠の違いにも!(幼児・学童期、思春期)

睡眠はヒトの脳や体の成長と深い関係があります。
男女の睡眠の違いは、幼児期(1~5歳)にはすでにあって、第二次性徴を迎える思春期(11~18歳頃)以降に顕著になります。

学童期(6~12歳)には、女子は男子よりも長く眠り、睡眠が安定していることがわかっています1)
これは、女子は男子よりも成長が早いことと関係していると考えられています2)

幼児期や学童期は、脳の発達のためにも特に深い睡眠(ノンレム睡眠N3)が長く必要です3)
深い睡眠によりうながされる成長ホルモンの分泌は、女子は13歳、男子は14歳でピークに達します2)
脳や体の成長にともなって、思春期頃には深い眠りは急激に減少しますが、女子ではその時期も早いことがわかっています(12~14歳で男女に有意差あり:反復測定分散分析、F1.36=13.1、p=0.0009)4)

思春期には、性ホルモンの分泌量が大きく変化し、女子は12歳頃に初潮を、男子は13歳頃に精通を迎えます。
女子は月経が始まると、睡眠が月経周期の影響を受けるようになって、不眠症のリスクになることがわかっています5)
また、この時期には睡眠習慣の変化も大きく影響を及ぼすようになります*1

  • *1:思春期には睡眠習慣に男女差が生じ、それにともなって女子に睡眠不足が生じやすくなっています6)

②女性ホルモンの劇的変化が睡眠に影響!?(成熟期)

生物学的には、女性は適応能力や柔軟性が高いとされ、客観的な調査では、健康な女性は男性よりも睡眠の質が良かったことが示されました7)
しかし、主観的な調査では、女性は不眠による不調を訴える割合が高いと報告されています8)
女性は育児や家事、介護などを担うことが多く、さまざまな環境や、それにともなう心理的ストレスが大きく睡眠に影響していると考えられています。

また、月経や妊娠による性ホルモン分泌の変化を受け、多くの女性がさまざまな睡眠の変化を経験しています9)
月経では「エストロゲン」「プロゲステロン」という女性ホルモンが分泌されます*2
月経後は一般に「エストロゲン」が分泌され、体調が安定し、快適な睡眠が得られる時期です。
一方、月経前は「プロゲステロン」の作用により、睡眠が浅く、日中の眠気が強まります10)
女性はこの変化を、初潮から閉経まで、ほぼ毎月繰り返しているのです。

個人差もあるのですが、このような女性特有の睡眠変化を把握し、生活や睡眠環境を整えることで、月経にともなう睡眠の問題を和らげられると考えられています11)

  • *2:女性ホルモンは深部体温の調整にも関わっています。

妊娠すると、両ホルモンは一時的に減少しますが、その後大量に分泌され、出産後は両ホルモンの急激な低下が生じます12)*3

  • *3:妊娠・出産にともなう女性の睡眠には、女性ホルモンだけでなく心や体の変化も関係しています。

一方、男性ホルモン「テストステロン」は、一日の中で変動します(概日リズムによる変化)。
夕方に低下し、深夜に最低値となりますが、睡眠中に分泌量が増え、早朝にはピークを迎えます13)
しかし、24時間以上の徹夜をすると、「テストステロン」の分泌量は減少してしまいます14)

「テストステロン」は男性の健康を支えるホルモンであり、分泌量が減少すると、集中力や筋力の低下なども生じます15)
そのため、男性も適切に規則的な睡眠をとるようにしましょう。

③更年期不眠は性ホルモンの急激減少のせい!?(更年期)

更年期(男性:40代後半以降、女性:45~55歳頃)には不眠症など、さまざまな睡眠障害が報告されています。
加齢による性ホルモンの減少は男女に共通するものの、女性は急激な減少をともなうため、大きな負担がかかります。

女性の更年期は、閉経前後の5年間で、「エストロゲン」欠乏に伴う発汗や寝汗などが生じます。
このような症状がある人は、ない人に比べて眠りにつきにくく、日中の生活に支障をきたすと報告されています16)
またこの時期は、呼吸をうながす作用がある「プロゲステロン」も急速に減少するため、睡眠時無呼吸症候群などを生じる方が急増することもわかっています17)

ただし、更年期女性の不眠のうち、女性ホルモンは不眠の原因の一部にすぎないと考えられ、
子どもの巣立ちや親の介護などのライフイベントがもたらす心理的社会的ストレス、不適切な生活習慣も原因として関わっていると考えられます。

男性では、「テストステロン」は通常、20代をピークに緩やかに減少します18)
しかし、「テストステロン」の減少スピードや時期は個人差が大きく、ストレスなどにより40代以降に急激に減少する男性もいます。
その場合、意欲低下やうつ症状など心の不調から、また、ほてりや発汗など体の変化から、睡眠障害が問題になることがあります19)
女性の更年期障害が閉経前後の5年間で症状が落ち着く一方で、男性の更年期障害は終わりがないと言われることもあります。

更年期障害の症状改善には、男女ともに規則正しい生活・睡眠習慣を心がけ、ストレス解消に努めましょう。
不調が続く場合には、医師への相談も検討しましょう。

1)
Fallone G et al. Sleep. 2002: 25(7): 739-45
2)
Isojima T et al. Endocr J. 2012: 59(9): 771-80
3)
Roffwarg HP et al. Science. 1966: 152: 604-19
4)
Feinberg I et al. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2006: 291(6): R1724-9
5)
Johnson EO et al. Pediatrics. 2006: 117(2): e247-56
6)
Shinto T et al. Sleep Adv. 2022: 3(1): zpac035
7)
Jean-Louis G et al. J Womens Health Gend Based Med. 1999: 8(8): 1113-7
8)
Itani O et al. Sleep Med. 2016: 25: 130-8
9)
Baker FC and Lee KA. Sleep Med Clin. 2022: 17(2): 283-94
10)
Brown AMC and Gervais N. Endocrinology. 2020: 161(9): bqaa128
11)
厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」 p. 38-41
12)
池ノ上克 他編. NEW エッセンシャル 産科学・婦人科学 第3版. 医歯薬出版 2004. p. 46-7、367-8
13)
Cooke RR et al. Clin Endocrinol (Oxf). 1993: 39(2): 163-71
14)
Su L et al. Sleep Med. 2021: 88: 267-73
15)
日本泌尿器科学会, 日本メンズヘルス医学会, LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き作成委員会 編. LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き. 医学図書出版 2022. p. 1-3
16)
香坂雅子. 文部科学省研究振興局 「日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究」成果報告書 第2期(平成11年-13年度)2002年. p. 60-74
17)
Pickett CK et al. J Appl Physiol. 1989: 66(4): 1656-61
18)
Decaroli MC and Rochira V. Virulence. 2017: 8(5): 545-70
19)
Nieschlag E. Andrology. 2020: 8(6): 1506-11
【参考】
日本睡眠学会 編. 睡眠学 第2版. 朝倉書店 2020 p. 372-6、643-6
井上雄一, 岡島義 編. 不眠の科学. 朝倉書店 2012 p. 11-3、116-22
奥山明彦 編. 男性更年期障害—LOH症候群—. 南山堂 2007 p. 33-7

もう少し知りたい!

思春期女子の睡眠習慣

思春期には睡眠習慣に男女差が生じ、それにともなって女子に睡眠不足が生じやすくなっています。

女性ホルモンと体温調整

女性ホルモンは深部体温リズムの調整にも関わっています。

妊娠と睡眠

妊娠・出産にともなう女性の睡眠状態の変化には、女性ホルモンだけでなく心や体の変化も関係しています。

もっと知りたい方のColumn

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