睡眠トピックス

ドクターからのメッセージ

第2回 近所のおばさんが不眠症の患者さんを苦しめる、という話

日本大学医学部精神医学系 主任教授
内山 真先生より


内山 真先生

不眠で悩んでいる人は多いと思いますが、昼間にいやな事があったりした夜、よく眠れなくなるのは人間として正常な反応です。これは、われわれの直接の祖先がどうやってこの10万年を生き抜いてきたかを考えればよくわかります。最新の研究から、われわれ人類の故郷はアフリカと考えられています。人間が生活するまわりには猛獣がうようよしていたと思います。日中猛獣がそばまでくると、生命の危機に関わる大きなストレスを感じたことでしょう。こんな時、日中ストレスがあったからと夜に家族そろってぐっすり眠っていたら、夜不意打ちをかけられた時、家族が全滅してしまうわけです。

こうした時、家族全員でなくとも誰かひとりが、真夜中の小さな物音に気づいて家族を起こし、安全な場所に逃げることができたら家族が危機からのがれることができたでしょう。こうして、ストレスがあると眠りが浅くなったり、眠れなかったりする人がいる家族や部族は過酷な自然の試練に耐えて生き延びてきたのではと思います。日本で、全国的調査を行ったところ、成人のおよそ5人に1人が不眠の訴えを持っていました。これもわれわれの祖先の生活を考えると当然のことかもしれません。現代の日本では、生命に関わるストレスはそう多くないと思います。しかし、現代社会特有のストレスはいくらでもあります。試験の前には緊張のために、また修学旅行の前夜には興奮のために、眠れなくなるのも人間が持って生まれた生存戦略のひとつと考えると納得のいくものと思います。当然、これらはストレスに対する正常な反応のひとつですから、ストレスがなくなればまたよく眠れるようになります。

しかし、ストレスが強くて眠れない状態が続いたり、よく眠れなかった次の日に何か失敗した事があったりしたとします。そうすると、今度は、「眠れなかったらどうしよう」あるいは「眠らなくてはいけない」と、眠ること自体にこだわり始め、こうした不安がストレスとなって頭を冴えさせる原因となってしまいます。このようにして、いつしか原因がはっきりしない慢性の不眠症、いわば不眠恐怖症とでも呼ぶ状態になってしまうのです。大抵の患者さんはこの時点でお医者さんを訪れるわけです。医師からの生活指導を受け、適切な睡眠薬を適量服薬していれば、ほとんどがそのまま治っていきます。

不眠の起こるメカニズム


<不眠の起こるメカニズム>

問題になるのは、医師から睡眠薬に対する十分な説明を受けられなかったり、十分に説明されていても、近所のおばさんなどから、「睡眠薬なんか飲んでいたらボケる」、「くせになってとんでもないことになる」とか言われたりした場合です。こんなことをきっかけに睡眠薬への恐怖感を持つと、「眠れないと困る」→「睡眠薬で眠れる、だから飲みたい」→「でも睡眠薬を飲むとくせになる、いまにボケになったり、とんでもないことになるかも」→「睡眠薬を飲まない、だから眠れない」と、八方ふさがりの状態になってしまいます。こういう、誤った情報を元に、睡眠薬を飲むことに罪悪感を持ち、不眠に苦しんでいる患者さんが非常に多いのです。

現在使われている睡眠薬は、脳のベンゾジアゼピン受容体というところに作用する物質です。通常、お医者さんからは、安定剤型の睡眠薬とか睡眠導入薬などという説明を受けた方がほとんどだと思います。これらは、昔使われていた睡眠薬と比べると穏やかでくせにもなりにくい薬剤です。私は医師になって20年になりますが、こうした新しい睡眠薬を適正量服用していて、それだけが原因でボケたり廃人になったりした人を見た事がありません。世界的にも、ほとんど報告されていません。高用量を乱用すると依存になる可能性はありますが、治療のための常用量を、適切な期間を守って服用すれば、こういったこともまず起きません。
このように、不眠症の患者さんを苦しめていることには、睡眠や睡眠薬に対する誤った情報に基づくものが本当に多いのです。

このホームページをご覧になっている不眠症で悩む患者さんたちは、相談に乗ってくれる先生、治療を受けている先生からの生活指導、服薬指導を必ず守って、不眠を解消しましょう。くれぐれも近所のおばさんの間違った話を信じて、とんでもない事にならないように!

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